’93~’00 ホンダRS250R (NX5-MR01)

ホンダRS250R

まえがき

6年ぶりにフルモデルチェンジされた「NX5」

直接の開発ベースになったのは、92年 にルカ・カダローラがWGPチャンピオンを獲得した
新開発の「ホンダNSR250」です。

92年、日本GP2位のホンダNSR250(岡田忠之/TEAM  HRC)

92~97年型「ホンダNSR250」のシャシー

宇川徹選手/TEAM BENETTON HONDAの96年型NSR250
ジェネレーターがインナーローターになっていること
ラムエア通路が内包されたガソリンタンク
カーボン製のFブレーキローター、特殊メッキが施されたFフォークなど
各所にスペシャルパーツが目立ちますが
基本的にNX5系の「ホンダRS250R」と同じ構造であることがわかります。

93年型

 


85ps/12,250rpm、AVガス仕様が標準となっています。
材質の違いを除けば、ほぼ完璧な92年型NSR250レプリカにアップデートされました。

シリンダーのVバンクが90°→75°となり、 一軸バランサー付きとなったエンジンは全てが新設計。
後方シリンダーを前傾させて吸気管長を短縮したのをはじめ
各軸間を詰めて全長を短縮したり、 更なるパワーアップに備えてギヤの厚みや冷却系の容量をアップするなど、
総合的な見なおしを受けたようです。

クランクシャフトの下に一軸バランサーを追加。
ウォーターポンプもクランク下に移動しています。

エンジンのレイアウトは先代マシンのものを、写真の裏焼きのごとく そっくり左右反転させています。
したがってクラッチは左側、ドライブチェーンは右出しというめずらしいカ タチになっています。
ただし右Rブレーキ・左シフトというペダル配置は現在主流のレイアウトを 踏襲しているようです。
ハーレーやドゥカティならまだしも、日本製のバイクでこのようなレイアウ トを取るのはきわめてまれで
なぜこうしたかについては、かつて専門誌では
「シフトシャフトの全長を短くできるぶん計量化&信頼性が向上する」という 解説がありました。
理論的には納得できるものの、「GP500」でも「スーパーバイク」でもあまり見られない事例だけに釈然としませんでした。
ライバルメーカーが、一軸Vツインのレイアウトに変更し、ポテンシャル アップし始めていたので
他と違うことをして、更なるアドバンテージを獲得しようという「ホンダイズム」の現れだったんでしょうか?

フレームのメインチューブが、変形日の字断面に変更されているそうです。
スイングアームも、耐久レーサー「ホンダRVF750」や「ホンダ NR750」などで実績のある”PRO ARM( プロアーム)”に変更されました。

プロアーム

番外でご紹介するのは、「ホンダ NS500」エンジン搭載の86年型GP500マシン「elf 3」です。セルジュ・ロセ率 いるフランスのelfチームが開発し 、
イギリスの、ロン・ハスラム選手のライディングで年間ランキング9位を得ました。
これがプロアームの元祖です。

ハブセンターステアリング。
クランクケースを、応力メンバーとして想定したフレーム。
センターロック式の片持ちスイングアーム。
などなどの、エポックメイキングなメカニズムの集合体。

「ルノー・アルピーヌA442」(四輪のル・マン24h優勝車)
「トヨタTF101」(トヨタF1の先行開発マシン)などを設計、開発した
アンドレ・ドゥ・コルタンズ技師のオリジナルアイディアに、 elf石油が出資したプロジェクト。
プロトタイプレーサーの「elf-x」、「elf-e」(鈴鹿8耐にも出場)などからはじまり
「ホンダNSR500」エンジン搭載の「elf -5」まで発展しました。

これは、87年型”elf4”(’87ホンダNSR500/NVO-typeDのエンジン搭載)

一般的なオートバイでいうところのフレームというものがありません。
クランクケースがフレーム代わりという、4輪のフォーミュラ・カー的発想。


 

95年型

「NX5」は、先代の「NF5」に比べると「ハードウェア」的な変更点はきわめて少なくなってきています。

市販レーサーである、ホンダRS250Rに直接の影響はありませんでしたが、
94年度からは、GPで使用できるガソリンのオクタン価が
飛行場などでも普通に購入できるAVガス相当までに制限されました。
これによって、ワークスマシン・ホンダNSR500や、ホンダNSR250などの
エンジン面でのアドバンテージは少し削られたことになります。

95年型からは、出荷状態での足回りのセッティングが、それまでのエキスパート向きのものから
レーサーマシン初心者のレベルに寄った、遅いペースでも不安感の少ないものに なっているそうです。
また、Fブレーキがイタリアは「brembo(ブレンボ)」製の鋳鉄ディスクに、
ドリブンスプロケットがイギリスの「Renthal(レンサル)」製のものになるなど部品の外注率が高まってきました。

95年型のホンダRS250R
外観的にはシートカウル形状の変化が目立ちます。

’95NX5の諸元表

車名 MR01(NX5)
全長 1,954mm
全幅 640mm
全高 1,030mm
軸距 1,340mm
半乾燥重量 102kg
最低地上高 110mm
キャスタ 22°3′
リアサスペンション プロアーム/プロリンク
タイヤ F:3,25/4,75-17 / R:165/60-17
リムサイズ F:3,75-17 / R:5,50-17
エンジン形式 水冷2サイクルクランクケースリードバルブ75°V型2気筒
総排気量 249cc
ボア×ストローク 54×54,5mm
最高出力 87ps/12、500rpm(AVガス使用時)
最大トルク 5,03kg-m/12,000rpm
キャブレター PJ38
潤滑方式 混合式
始動方式 押しがけ
変速機 常時噛合式6速リターン
メーカー希望小売価格 ¥1,680,000(セットアップキット無し)
¥1、 790,000(セットアップキット含む

 

セットアップキットというのは、ピストンやガスケット類とはじめとする
1シーズンを戦うに必要となるであろう、エンジンの消耗パーツ一式を
低価格に設定しマシンに同梱するものです。


 

97年型

97年から(WGPでは98年から?)レースガス
AVガス等の有鉛ハイオク・ガソリンが使用禁止となったので
無鉛対策で、エンジンとかチャンバーの仕様が変わってるらしいです。
「ホンダNSR500」などでは、早くから採用されていた「ラム圧吸気システム」も標準装備されるようにな りました。

澤田令選手/TEAM SRS-J(ラ・モト高阪)の97年型・ホンダRS250R
HRCのキット車らしいです。
カウル前端にラムエアの吸入口が見えます。

ガソリンタンクの下には、キャブレターをすっぽり覆う「ラムエア・ボックス」が収納されています。

「SRS-J」というのは、将来のトップレーサーを養成するために設けられたスカラシップ制度で
若年層の少年、少女を対象としているようです。
カーター養成の「SRS-K」(SRSK・堺レーシングとちょっとまぎらわしいですね(笑))
4輪フォーミュラ・ドライバー養成の「SRS-F」等も存在するらしいです。

かつては「HRCクラブ」といって、基準ラップタイムを満たしたHRCマシンのユーザーに
鈴鹿サーキットに於ける、専有走行枠を提供する制度もありましたが
いまはどうなっているんでしょうか?

 

ラムエア

ラムエアを装備したオートバイの「はしり」ということでご紹介するのは
岩橋健一郎選手/TEAM BLUE FOXの、ホンダNSR500。

91年の全日本第14戦鈴鹿。三台によるデッドヒートを制した#14岩橋選手のNSR。
ハンドル部のカウルにラムエアの吸気口が見えます。
#1は伊藤真一選手のワークスNSR。#2は藤原儀彦選手のヤマハYZR500。

90年型ホンダNSR500をベースとし、
東京R&Dが開発した「ラムエア・システム」を装備した、先駆的なスペシャルマシン。
伊藤真一選手のワークスマシンをしのぐスピードをしばしば見せつけま した。

 

デトネーションリング

無鉛ハイオクガソリンでは、どうしてもデトネーションが起こりがちになる ので
ダメージを受けたシリンダーやシリンダーヘッドに、デトネーションリング と呼ばれる銅や真鍮材を圧入して再利用したり
デトネーションカウンターという計測器を、空燃費を決める目安にしたり
などの 新しい工夫が必要になっていて、それでもピストン寿命は以前より短くなっているそうです。

※デトネーション
圧縮行程にある混合ガスが、プラグによって点火される前に異常爆発を起こ す現象。
一般的に言われる「ノッキング」とおなじですが、現象としての現れ方はド ラスティックで
激しい打音を伴い「ピストン」や「シリンダヘッド」などに虫食い状の損傷 を与え、最終的には焼きつきに至ります。
高圧縮比のレーシングエンジンでは、起こりがちな現象です。


 

99年型

99年型からは、キャブレターが電子制御のPWJ(パワージェット) や
THセンサー(スロットル・センサー)をそなえたものになりました。

電装系の知能化が、市販車の「ホンダNSR250R」からかな り遅れてとりいれられたことになります。
低廉なガソリンで、安定して高出力をしぼりだす為のチューニングでしょうか?

電子制御化されたケーヒン・PJ38のキャブレター・ボディ

「Aキット」に含まれていた、ワークス仕様キャブレターのリファイン判のようです。
PWJ(パワージェット)へのガス供給を、12.750/12.500/12.250のいずれかの回転数で
ソレノイド・バルブによってカットする仕掛け。
ECUのカプラーを差し替えてセッティングを変更するようです。
スロットルセンサーは、点火進角の補正に利用されるんでしょうか?

フロントホイールのリム幅が、3,5インチと少し狭められたようです。
ホイールが外注品になったのは、00年型からでしょうか?
工事中
こちらの画像も追ってアップいたします。

 

電子制御キャブレターとEFI

90年型・ホンダNSR250(岡田忠之車)です。
キャブレターの電子制御化はこの型のマシンから既にトライされていたようです。

カウル全体に小さな穴が開いています。
最近ではごくあたりまえの処理ですが
NSR250やRVF750などのワークスマシンには
当時から様々なトライがなされました。

「電子制御燃料噴射」を装備した、ワークスマシン・ホンダNSR250のエンジン。
90年の全日本GP250に、#25黒川武彦選手のライディングで参戦しました。

ツインインジェクターで、スロットルバルブはバタフライ式を採用しています。

90年代中ごろから市販されたオートシフターという装備は
ホンダ NSR250・FI仕様からの技術的フィードバックだということです。
シフトアップ時に、シフトペダルにかかった踏圧を感知して
瞬間的に点火カットし、クラッチレスのシフトアップをアシストする電気的な仕掛けです。

おなじくFI装備の、93年型・ホンダNSR500
WGPで伊藤真一選手がライドしました。

これは’93日本GPのトップ争い。
#6が伊藤真一。この緒戦ではまだキャブ仕様だったそうです。
その後方がウェイン・レイニー/ヤマハYZR500
その後ろの#34がケビン・シュワンツ/スズキRGV-γ500

NSR500のインジェクション部。
ツインインジェクターで、スロットルバルブはPJ型のフラットスライドバルブを使っているそうです。
90年型NSR250のものより、緻密なA/F制御を行い、
GP500ライダーの繊細なスロットルコントロールに対応しているそうです。

2ストロークエンジンの吸気の流れを定常的に把握するのはなかなか難しいらしく、
HRCでは93年限りで、FIの実戦開発は見送ったようです。

NSR250Rは、94年型からプロアームを採用した第四世代(MC28)になり、
99年度をもっての生産打ち切りまでを締めくくりました。

’98 NSR250R SE
スタンダードなNSR250Rに、乾式クラッチや カートリッジ式Fフォーク
リザーバタンク別体の、フルアジャスタブル・リアショック などの装備を追加したモデル。

こちらのエンジンは、90度V(MC16E)のまま最終型まで行ったようです。
RS250R同様に90年代に入ると改良は微細なものになっています。

「PGMメモリーカード」と呼ばれる「カードキー」を組み込んだ電装系”PGM-Ⅳ”や、
パワージェットを備えた新型キャブレターなどが目新しいところ。


 

あとがき

96年の全日本・最終戦菅生に凱旋帰国した宇川徹選手の、スペシャルな「ホンダNSR250」
エンジン・レイアウトは一軸Vツインのままながら、ピボットレス・フレームを試験的に実戦投入しています。
”NX5”系から”MR02”系へとつながるさまざまな技術的トライの第一歩でした。

ピボットレス「ホンダNSR250」のシャシー

ピボットレスフレームとプロアームの組み合わせ。
ほかには白バイで使われるVFRなどにしかみられないユニークな形です。

関西出身のGPライダー、辻村猛選手のスペシャルマシン
”AC26M”

97年以降は熟成度が上がってきて、’97日本GPなどではワークス NSRとセメントバトルを
繰り広げています。画像は96年のもの。

鈴鹿サーキットのホンダユーザーは必ずと言って良いほどお世話になる
「F.C.C.テクニカルスポーツ(現TSR)」が開発した
両持ちスイングアームのオリジナルフレームに、RS250Rのエンジンを搭載しています。

”TSR”では、250のスペシャルマシンを継続的に開発し、
全日本ロードレースでは、上位グループの常連となったようです。
”MR02”の両持ちスイングアームは
このマシンからの逆フィードバックという見方も出来るかもしれませんね。
同様のコンセプトで、埼玉の「エンデュランス レーシング」が製作した
「NER250」というロードレーサーも全日本に参戦したそうです。

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